書評

【本棚】荻野目慶子『SURRENDERー荻野目慶子写真集ー』虚実皮膜を彷徨する魔性の告白 前編

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3年くらい前に、引っ越し準備をしていたら、わたしの部屋の本棚から荻野目慶子さんのヘアヌード写真集が出てまいりましてね。

SURRENDER―荻野目慶子写真集 (Friday deluxe) -
SURRENDER―荻野目慶子写真集 (Friday deluxe) –

あら~? いつ買ったんだろう? ていうかなぜ買ったんだろう!?

と、ちょっと驚きましたけど、まあ写真集ですから開いて見ますわね。まだこの段階では自分がなぜ、どこでこの『SURRENDERー荻野目慶子写真集ー』という本を買ったのか思い出せないわけです。

(エロくない……)

写真を見たときのわたしの感想でした。

まあ、エロ目的で女性の写真集を買う趣味もないんですが、ますますこの本がわたしの部屋にあることが不思議でなりません。プレゼントされたわけでもなく、わたしがお金を払って買ったのは間違いありません。

その謎が、今年になって『女優の夜』を読んで解明しました。

『SURRENDER』は荻野目慶子さんと恋人で不倫関係にあった故河合義隆監督が撮影し出版した写真集でした。不幸なことに河合監督はこの写真集以後、精神のバランスを完全に壊し、同棲していた荻野目さんの自宅マンションで縊死を遂げるのです。わたしはそのサイドストーリーに興味を惹かれ『SURRENDER』をヤフオクで落札したのでした。『女優の夜』には、わたしが写真集を見て(エロくない)と思った理由もちゃんと書いてありました。

女優の夜 -
女優の夜 –

「そしてようやくポーズが決まると、一度決めたポーズを取り終わるまでの長い時間、保つことを強いられる。彼の買ったカメラは、いわゆる肖像写真に向くもので、自然な動きを流れで捉えていくというものではなかったから、たった一枚を撮るのにとても長い時間を要した。
彼は真剣になると、本当に怖かった。『表情や肉体に疲れが見える!』と、何度怒られたことだろう。一日の撮影が終わると、お互いに口もきけないくらい疲れていた。私は体中の筋が張ってパンパンだった。彼をマッサージすると、彼も同じだった」(『女優の夜』)

ここを読んだとき、正直、2人とも何やってんだ、と思いました。

こんなことして撮った写真がエロいわけがないです。もちろん河合氏はいくら自分の愛人とは言え、エロい荻野目さんを撮ろうとしたわけではなかったと想像できます。大真面目に美しい写真を、芸術性の高い作品を荻野目慶子という被写体を通して撮りたかったのでしょう。そしてそれは成功しています。『SURRENDER』の荻野目慶子さんは本当に美しいし、写真集としても評価が高いです。

しかし、河合監督と荻野目慶子の愛の姿は最初から最後まで、他人から見れば、2人とも何やってんだ、なのです。

タイトルの”SURRENDER”とは、委ねる・明け渡す、という意味だという。ヌードになっているのは荻野目さんだし、女優は監督に身も心も委ねると考えがちです。ですが『女優の夜』を読むと、河合監督と荻野目さんがお互いに共依存の状態にあったのは確からしいけれど、より深く依存し、身も心も委ねていたのは、河合監督の方だったと確信するのです。
39歳で妻子もある男が23歳で初めて独り暮らしを始めた女優の家に転がり込む。

妻に愛人の話を隠さずし、妻子と愛人を実際に会わせたり、愛人のヌード写真集を見せて感想を求める。

愛人に生活の全てを頼りながら、暴力をふるう。

荻野目さんは河合監督は女性に母性を強く求めていたと思うと書かれていますが、そんな生易しい言葉では表しきれない、たぶん男にしかわからない弱さと闘っていたのではないでしょうか。

女に身も心も委ねている自分にいらだち、焦り、女にすがるしか生きる術を持たず、わかりきった不甲斐なさをどこにぶつけていいかわからない。目の前にいる女を殴ったところで何も解決しない。酒に溺れ、ギャンブルを覚え、精神を崩壊させていく。

愛だの母性だのと甘ったるい女と、妻子と愛人がいてもどこまでも孤独な男が生み出した、鬼っ子のように美しい写真集、それが『SURRENDERー荻野目慶子写真集ー』です。

残念ながら『SURRENDER』は、引っ越しのときに他の本やCDといっしょに段ボール箱に入れてブックオフに売ってしまいました…。

(画像はブックオフオンラインから)
http://item.rakuten.co.jp/bookoffonline/0015304631/

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