映画

【映画】ヤクザと憲法【前編】­ 清勇会会長川口和秀にしてやられた東海テレビ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

暴力団について詳しいわけではないのですけれど、ある種のシンパシーを抱いておりまして、それは、はぐれ者が貧困の中で、理不尽な差別や権力と闘うには、暴力も辞さないというかですね、最後はいつでもケツまくってやるぜ、みたいな血の気の多い性格がわたしの中にあるんですね。

ヤクザや任侠道に興味がある方って、多かれ少なかれアウトロー的な埋もれ火を持っていて、それを小さく燻らせて満足できるか、大きく燃やさないと気が済まなくなる別の要因があるのじゃないかと思ったりします。

東海テレビ制作のドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」は、大阪市西成にある指定暴力団・二代目東組の二次団体である二代目清勇会に密着取材し、川口和秀会長を始めとして登場するヤクザはモザイク無し、実名で、清勇会組事務所の日常が描かれていきます。

組事務所には大きな本棚が置かれており、服役中に差し入れられた本がずらっと並んでいます。ヤクザだからといってヤクザの本ばかり置いてる訳じゃなくて『犬と私の10の約束』や『世界の猫100選』などを手に「刑務所の中ではこういうかわいらしい写真とかね。いいじゃないですか。癒しになりますね」と組員は語ります。

映画の中には組の主な資金源である、覚醒剤の密売シーンや、東組の創立者で総長の東清の葬儀、清勇会部屋住みの若い組員を若頭がボコるなど、ヤクザ社会ならではの映像も流れます。

ただ、とにかく二代目清勇会会長にして、東組副組長の川口和秀氏が只者ではありませんでした。映画の中では新世界の定食屋にふらりと訪れ、店主の女性から警察より厚い信頼を寄せられています。

「(暴力団であることは)知ってるよ。いつも気にかけてくれはんねん。警察なんかなにしてくれるの? なんにもせえへん」

と、店の女将は言います。

川口会長は一見するとIT企業の社長のようです。60歳を越えて若々しく、オーラはすごいですがヤクザには見えません。しかし、壮絶な人生を歩んできた凄みは消せません。

1985年、兵庫県尼崎市のスナック「ラウンジ・キャッツアイ」で、抗争中であった山口組系倉本組組員に対し、清勇会の組員が発砲する事件が起こります。このとき相手の組員は重傷を負い、流れ弾で19歳のホステスが死亡しました。川口和秀会長は、この事件で未決拘留も含め22年もの服役を強いられるのですが、実は犯行に及んだのは絶縁した元組員であり、事件の一切に川口会長は関与していませんでした。元組員の偽証による冤罪だったのです。

この事件が「暴力団対策法」制定のきっかけになったとされ、服役生活が川口会長のその後の人生に大きな影響を与えたのでしょう。

川口会長は苦しんでいる関東と関西のヤクザの現状を集め、彼らの切実な訴えを静かに語り始めます。

・暴力団排除条例から我々は銀行口座すら作れなくなり、既存の口座も解約されている。

・そのため暴力団員の子どもは給食費の銀行引き落としができないので、現金を毎月持って行かなくてはならず、いじめられ、差別されている。

・保育園通園を親が暴力団員という理由で断られた。

・宅急便がヤクザの組事務所には配達してくれない。

・家族が保険に入れない。暴力団員とわかると解約される。(実際に映画のラストで、清勇会直参の河野裕之が車の自損事故を起こし、保険会社の保険金支払い拒否というトラブルに巻き込まれ、あげくに詐欺未遂で逮捕されてしまう)

ヤクザとその家族には人権がないのか。

憲法で定めるところの基本的人権が侵害されている。

ディレクター「ヤクザと人権ってちょっと合わない感じがするんですけど…」

川口和秀会長「しかし実際こうして被害受けとるわけやからね」

日本国憲法第十四条
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

川口会長の問いかけは明確です。

六代目山口組の上納金問題から、神戸山口組が分裂し、さらに任侠団体 山口組が生まれたのを見ても、暴力団排除条例が暴力団の弱体化に効を奏したと言えるのかもしれません。

それにしても川口会長のかっこ良さ。

任侠好きならずとも、この映画を見たら川口会長のファンが増えると思います。物静かで気さくなインテリどころか、武闘派東組の副組長で清勇会会長です。ハマると危険です。

東海テレビは川口会長にまんまとハマってしまったようです。「ヤクザと憲法」の法律監修をされた安田好弘弁護士を取材した映画「死刑弁護人」で見られた、被写体が持つ矛盾と齟齬まで描ききれていないのです。

ヤクザが本来抱えている問題はもっと奥深く見えないところにあるはずです。それを川口会長はヤクザと人権の問題に焦点を定めた。そして取材陣を自らの手の内に引き込んだ。

つまり、この映画はヤクザに寄りすぎるのです。

数々の傑作ドキュメンタリーを生み出した東海テレビスタッフより、川口会長のほうが役者が何枚も上でした。そういう意味ではヤクザファンにはたまらない映画ですし、歴史に残る快作だと言えます。

川口会長が問いかけた命題は、意外な形でわたしたちに帰ってくることになりました。

その前に映画「ヤクザと憲法」もう1人の主人公である、山之内幸夫元弁護士について書いておきたいと思います。


【映画】ヤクザと憲法【後編】に続きます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。