書評

築地場内の墨田書房で『築地魚河岸ブルース』の沼田学氏に会う

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築地城内市場墨田書房

9月9日の築地散歩最終回です。

この日は朝10時から築地でサイン会がありました。わたしはTwitterで知って、ぜひ行きたいと前日から予定を立てていたのですが、土曜日は母が9時にデイサービスに行く日でもあり、母を送り出してから出かけると、どうしても10時のサイン会には間に合わなかったのです。

病身のわたしにとって築地散歩は勇気のいる冒険でした。でもそんな不安を吹き飛ばすように、築地市場のみなさんはわたしにパワーを与えてくれました。

喜多品のいちご大福と黒猫くーちゃん、波除神社で重陽の節句を祝い、築地どんぶり市場でマグロのほほ肉ステーキ丼をかっ込み、魚河岸水神社へお参りし、それでも心残りだったのが場内市場の墨田書房で開かれていた『築地魚河岸ブルース』の写真家・沼田学氏のサイン会でした。

『築地魚河岸ブルース』は築地市場で働く男たちの写真集です。Amazonでも売り切れで、入荷未定。Twitterで拡散され「カッコいい!」「オヤジ萌え!」「渋い!」「築地の岩城滉一だ」と、話題になっています。たとえばこのツイート


いろいろ遊びまわった後だったので、時間は12時を過ぎていました。でも魚河岸水神社から墨田書房は目と鼻の先です。せめて本だけでも手に取って見たい。そんな思いで墨田書房さんへ行きました。
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築地場内の墨田書房
(墨田書房は撮影禁止、携帯・スマホ使用禁止です。この写真はブログ用として撮影・掲載許可をいただいています)

築地場内の書店だけあって、調理、食材、飲食店向けの専門書や雑誌が揃っています。一般の方向けのレシピ本や外国人観光客も楽しめる美味しそうな写真を使ったビジュアル本などもあり、プロの料理人にも、家庭の食を担うお母さん、お父さんにも有難い本が揃っています。

さて、サイン会で売り切れだったらどうしよう。おおお、良かった。本あった。店頭に平積みにされている『築地魚河岸ブルース』を手にとりました(いいなあ、やっぱりおじさんたちかっこいいなあ)。すると書店の奥から小柄な女性と、市場には不似合いな黒スーツの男性が出てきました。なんとなくカンで(あ、業界人だ。取材かな? おじゃまなら帰ろう)と思っていました。すると墨田書房の若旦那からわたしに話しかけてくれました

「この本撮った人中にいるよ」

「えっ! 沼田さん?」

「そう」

「10時からサイン会だったのは知ってたんですけど」

「今出ていった女の人、Twitterで拡散してくれた漫画家さん」

「えっ!」

わたし、漫画家のおざわゆきさんが沼田さんに会いにいらしたところにちょうど遭遇していたんです。おたおたしていると、墨田書房の若旦那がわたしを書店の奥に招いて、沼田さんに会わせてくれました。沼田さんにサインを書いていただきながら

わたし「もういらっしゃらないと思ったんですけど、本だけは見たくって」

沼田氏「サイン会、何で知ったんですか?」

わたし「Twitterです!」

沼田氏「Twitterってすごいんだなあ」

若旦那「もしかして電話くれた人?」

わたし「電話はしてません」

若旦那「さっき電話くれた人がいてね。(沼田さんは)その人のことを待ってたんだよ」

なんというタイミングの良さ!

沼田さんに、ブログに載せたいので写真を撮っていいですかとお聞きしてみました。

沼田氏「悪いことを書かなければいいですよ」

わたし「悪いことなんか絶対に書きません!」

若旦那「写真撮るなら明るいところのほうがいいんじゃない?」

そうこうしていたら店の外で墨田書房のご主人に外国人観光客が何かを聞いたようで、ご主人が「ノー、イングリッシュ」と何度か仰っています。そこへ沼田さんが写真撮影のため店の奥からでていらっしゃって、外国人の方に

沼田氏「イングリッシュ? ア・リトル」

と言いながら、めっちゃ流暢な英語で築地場内の道案内をしていました。あら、かっこいい!

そのあと撮らせていただいた写真です。
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緊張して手が震えまして写真家の先生に誠に申し訳ない感じの写真になってしまいました。ごめんなさい。こころよく撮影させてくださいましてありがとうございました。
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いただいたサイン。名前のところをモザイクで消すとアヤシイ人だと思われそうですね。でもね一応ね。

沼田先生、本当にありがとうございました。
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写真集『築地魚河岸ブルース』は、安田顕さん主演で映画化された『俳優・亀岡拓次』の著者・戌井昭人氏のSF小説のような巻頭文から始まります。何度も芥川賞候補になっている戌井氏独特の不思議な雰囲気の文章を読んでいると、そのままリアルな築地市場の世界へと誘ってくれる仕掛けです。

沼田学氏は「定点観測」という手法で、築地市場で働くオヤジたちを真正面から撮り続けます。長靴をはき、ターレを乗り回し、雨の日も、夏の日差しの中も、顔の皺一つ一つに深く人生が刻まれた個性的な男たち。いえ、市場で働いているのは男ばかりではありません、ターレに乗ってVサインを高く掲げるポニーテールにTシャツ姿の若い女性、美しい白髪をなびかせながら赤い口紅に紫の長靴で自転車に乗る女将さん、果ては世界中から築地にやってきた異国の観光客に至るまで、市場を通るあらゆる人々が沼田氏の被写体になっています。

たぶん、彼らに共通しているのは築地にいる間は市場人であるということ。

わたしはね、この写真集を見ていると力をもらえるんです。何度見ても飽きないです。一人ひとりみなさん本当に魅力的です。かっこいいしね。人間が生きて、生活して、働いている姿は美しいです。『築地魚河岸ブルース』で沼田学氏が切り取った築地市場の人々はわたしの憧れの世界なんです。

同書には、英語と日本語のあとがきがあります。外国の方にもぜひおすすめしたい本です!
著作権の関係で本の中の写真は紹介できないので、YouTubeでごらんください。

築地市場で働く男たちのポートレート「築地魚河岸ブルース」の写真展 & 大判写真集制作

『築地魚河岸ブルース』は、クラウドファンディングで予定を超える153万円を集め、300部限定で大判の写真集を発売予定です。

表紙を飾るMAKIさんは66歳で今年CDデビューしました! MAKIさんのCDは墨田書房さんでも売っています。

ターナーズ「築地フィッシュマーケットブルーズ」LIVEバージョン

仕事中のMAKIさんのPV。

しぶいわあ、かっこいいわあ

市場で働きながら音楽を続けていたMAKIさんを初めとして、この本に載っているおじさんたちは、みなさんいろんな仕事や過去を背負って築地で働いているのだろうと思います。まずその方たちの写真を撮ることからして1~2年築地に通い詰めただけでは普通は難しいはずです。でもそれを可能にしたのは、おそらく、場内の豊洲新市場移転問題と無縁ではなかったでしょう。オヤジたちがたどりついた築地市場が移転問題で揺れている。築地場内はなくなるそうだ。今度は豊洲に行くのか。でもそんなことは関係ない。今日の仕事を事故なく無事に終わらせるだけだ。しかしある日、築地で働いている人々の姿を写真に残したい。写真を撮らせてくれ。実はもう撮ったからプレゼントするよという青年がやってきた。迷惑だ。いや、これいい写真じゃないか。

写真家沼田学氏を前に、文字通り築地市場の皆さんは一肌脱いでくれたんじゃないでしょうか。誠実なカメラマンと愛する築地市場のために。そういう意味で『築地魚河岸ブルース』は画期的なポートレート集だと思うのです。

※墨田書房(現在はもうありません)

東京都中央区築地5-2-1 築地市場内8号館
営業時間 5:30~13:00
定休日 日、祝日(休市日に準ずる)

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