話題の人

バンクシーのネズミの意味を小池都知事は知っているのだろうか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

寝た子を起こすとはまさにこのこと。日の出防潮堤の扉に描かれた、バンクシーの作品かもしれないネズミの絵が、4月25日から5月8日まで、都庁第1庁舎2階で一般公開されることになりました。小池知事は「世間の関心も高いので実物を見ていただく機会を作った」「本人にもダイレクトメッセージを送っているが、今のところ返事がない」と語ったそうです。そりゃそうでしょう。もともとは1月のこのツイートが始まりでした。

バンクシーと言えば、ロンドンのサザビーズに代表作”Girl With Balloon”が出品され、落札額100万ポンド(約1.5億円)で落札された途端、額縁に仕掛けられたシュレッダーが作動し、衆人環視の中で無残にも切り刻まれるという「事件」を起こした、正体不明の社会風刺路上画家、グラフィティアーティストです。

にわかに真贋論争が巻き起こりまして、ネット上でも喧喧囂囂、果たしてあのバンクシーが描いたホンモノのネズミか、それともニセモノの落書きか。わたしのこんなツイートまでプチバズりました。

バンクシーの制作技法がまさにこのような型紙を壁に固定し、その上からスプレーを吹きつけて画像を転写するステンシルアートであり、全く同じネズミの型紙を日本円で850円ほどで買えるのだから、ニセモノを描くのは至極容易なわけです。

にもかかわらず、東京都はこのネズミがホンモノだと確信を持っていたようです。その理由は2点あります。1つは、バンクシーが自ら監督した映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」(2010)に、このネズミが登場し、”2003 Tokyo”と字幕が入り、防潮扉のシーンに映し出されているコンクリートの割れ目まで酷似していること。もう1つは、バンクシーの画集『Banksy Wall and Piece』に編集の理由からか、反転されたネズミの絵が載っていて、ボルトの数や位置が一致していること。さらに言えば、日本にいるバンクシーの専門家2人が本物だとした上で元ある場所に戻すべきだとの声明を出しています。

本物か偽物かというのは、もちろん大きな問題に違いないのですけれど、では2003年に描かれた落書きを十数年放ったらかしにしといて、雨風にさらされて消えかかってるものをなぜ今ごろ東京都は前のめりになってるんだ? という違和感です。

おそらく、サザビーズの事件をきっかけに、オークションで1億以上の値がつく画家の作品が、実は東京の道端にあるんですよという情報提供者がいた。それをぜひ、収蔵・保存させてくださいと、東京国立近代美術館館長神代浩氏から東京都副知事多羅尾光睦氏宛にお願いしたらしいのです。以下の画像は「宮下公園整備計画よもやま話編集委員会(@miyasitaseibe)」のTwitterアカウントのツイートから転載しています。重要な内容なのでここでは画像を引用し、文章を書き起こしますが、ぜひ、元のツイートを読んでいただきたいと思います。

(文書1)

平成30年12月19日
東京都副知事
多羅尾光睦様

 おはようございます。昨日は急なお願いにも関わらずお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。また、面倒な案件を即決で前向きにご対応いただけるとのことで、関係者一同大変喜んでおります。心より感謝申し上げます。

 その上で、若干補足すべき情報および追加でご検討をお願いしたい事柄がありますので、取り急ぎお知らせする次第です。

1.彼が路上で描いた作品については、それらをどう保存・公開するかについて各地で議論となり、その過程を映像で記録する動きも盛んです。ユーチューブなどでこれらの映像をご覧いただくことができますが、映像を通じて作家と作品自体がより広く知られ、作品の価値自体も高まるという効果があります。これは作家自身が望んでいることでもあるようです。
 そこで、可能であれば、このたびのご対応の様子を映像で残しておきたいのです。(黒塗り)許可をいただければ撮影に伺えます。
 ただ、緊急を要することですので、仮にそれが難しいようであれば、ご対応なさる職員のどなたかに、作業の様子を映像で記録しておいていただきたいのです。
ご検討賜れば幸いです。

2.上記1.との関係で、いつご対応なさる予定か、決まり次第当方までお知らせいただければ幸いです。これは、現状を写真・映像で記録しておくために、どの程度の時間があるか、を知るためです。

3.仮に作品の描かれた鉄板を取り外す場合、1本だけボルトの上にも描かれた箇所があります。可能であれば、このボルトを外さずに鉄板を撤去できればベストかと思います。技術的に難しいかもしれませんが、ご検討賜れば幸いです。

以上、勝手なお願いばかりで恐縮です。何とぞご高配を賜りますよう、お願い申し上げます。

東京国立近代美術館長
(黒塗り)

まず、この文書が本物かどうかという問題がありますが、非常に面白い内容であることには間違いないです。書いた人はあのネズミがバンクシー(=「彼」)の作品だと確信していて、一刻も早く撤去して保存したい、その一心なんですね。なんかもう必死な感じが伝わってきます。同時に、撤去するならその場面を動画で撮影して残しておきたいと、そうすることを「作家自身が望んでいる」とまで書いています。果たしてそうなんでしょうか。確かに、都の職員が防潮堤の扉からネズミの絵の部分を切り出して、わざとカメラに向けて見えるように運んでいたニュース映像を思い出します。

宮下公園整備計画よもやま話編集委員会(@miyasitaseibe)はもう一通Twitterで文書を公開しているんですが、それは撤去までの時系列の経緯がまとめられていました。

(文書2)

(参考)
防潮扉パネルの一時保管の経緯
12/18 東京国立近代美術館から多羅尾副知事へ情報提供あり
12/19 多羅尾副知事から、バンクシー作品の可能性があるため、当局に対応を検討するよう指示(筆者注:既出文書1)
12/26 現地確認
  ~港湾局と協議し、現場の混乱回避や防潮扉の毀損防止、作品の保全のため、作品が描かれた港湾局の財産である防潮扉のパネルを取り外し、当局で一時保管する方向で調整~
1/11 上記方向性を庁内で確認。東京都現代美術館に対して運搬と保管を口頭で依頼
1/16 パネルを港湾局にて取り外し、東京都現代美術館がパネルを運搬し、倉庫にて一時保管

小池百合子知事がバンクシーのネズミと写真を撮ったのは1月12日になります。午前中に豊洲市場で開かれた、豊洲市場Oishii(おいしい)土曜マルシェの第1回に参加し、その後防潮扉へ向かった。小雪降る寒い日でしたね。

公共物に落書きをするのは犯罪なんですよね。その落書きが高価な美術品だからといって、法律を犯している東京都は何なんだと、宮下公園整備計画よもやま話編集委員会のみなさんは仰っています。

まさにバンクシーのネズミ狂想曲です。

さて、そろそろバンクシーのネズミにどんな意味があるか、まとめておきましょう。バンクシーはネズミの絵をたくさん描いていますが『Banksy Wall and Piece』にこんな一文があります。

やつらは許可なしに生存する。やつらは嫌われ、追い回され、迫害される。やつらはゴミにまみれて絶望のうちに粛々と生きている。そしてなお、やつらはすべての文明を破滅させる可能性を秘めている。もし君が、誰からも愛されず、汚くてとるに足らない人間だとしたら、ネズミは究極のお手本だ。

わたしはね「やつらはすべての文明を破滅させる可能性を秘めている」にワクワクしましたね。アナーキーですねえ! バンクシーはネズミに悪意を抱いてはいないようです。

そして、なぜかほとんど引用されないのですが『Banksy Wall and Piece』のまさにあの、2003 Tokyo のネズミの横にこの文章が書かれています。

人類ってやつはもっとも愚かで不公平な類の種族だ。大半のランナーはまともなスニーカーやきれいな飲水さえ持っていない。生まれつきすごくラッキーなランナーもいて、そいつらは道の途中でも手厚くケアされるうえに、審判まで味方みたいだ。多くの人が完全競争をあきらめて、観覧席に座り込んで、ジャンクフードを食べながらヤジを飛ばすのも不思議じゃない。人類に必要なのは、もっと大勢のストリーカーだ。

ストリーカーはたぶん”streaker”。何も身につけず走る人、つまり我が身一つで完全競争ができる人々が人類には必要だとバンクシーは思っている。本来、ネズミたちは何も持たない。しかし、東京のネズミは傘をさして財産をカバンに詰め込んでいる。生まれつきすごくラッキーなネズミ、それが東京都民、いや日本人。

画集に添えられたバンクシーの言葉を読むと、なぜあのネズミが東京に描かれたかよくわかります。まるで15年後の東京を予言したみたい。ネズミの落書きの横にしゃがみこんで東京オリンピックの五輪コートを着て微笑む小池知事。奇しくも芸術は完成した。すばらしい! そして実に滑稽だ。

では、そもそも、バンクシーはなぜわざわざ2003年に東京を訪れてネズミの絵を残したのだろうか? そのヒントになりそうなのが前年5月に起きた、瀋陽日本国総領事館北朝鮮人亡命者駆け込み事件での日本の対応でしょう。幼いハンミちゃんの泣き顔は全世界に衝撃を与えました。

2002年5月8日、金高哲一家など5人の亡命者は日本国総領事館に駆け込みを画策、失敗し中国人民武装警察部隊に取り押さえられた。その際、総領事館の敷地内に無断で足を踏み入れていたこと、逮捕された亡命者が北朝鮮へと送還される可能性があったこと、日本国内の中華人民共和国大使館および駐中特命全権大使・阿南惟茂の事件への対応(事件発生直前、亡命者が大使館に入ってきた場合は追い返すよう指示を出していた)を巡り批判、問題が発生した。(Wikipedia)

日本は難民に冷淡な国です。ハンミちゃん一家が仮に日本国総領事館に入れたとしても、きっと過酷な生活が待っていたでしょう。現在も多くの難民が入管に監禁され続けたり、体調を崩して家族が救急車を呼んでも、職員が追い返すなどという愚挙が行なわれています。その東京出入国在留管理局が、昨年こんなツイートをしていました。

おまゆうな感じのツイートですが、これは、日本人のグラフィティアーティストが描いた”FREE REFUGEES”(難民たちを解放せよ)というレターです。

残念ながら「落書き」はあっという間に消されてしまいましたが、日本人の彼が表現した「難民解放」のメッセージは大勢の人に広がっています。生まれつきすごくラッキーなネズミは、来たるべき東京オリンピックにむけて、難民の人権に配慮できる寛容さと国際的な人道主義を身につけることができるでしょうか。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。